長谷川光志
ステイホーム記⑥〜タマ子と熱帯魚

ステイホーム初期、観たらなにか描くようにしていた。
「もらとりあむタマ子」はびっくりしたな。なににびっくりしたって前田敦子にびっくりしたな。これものすごく地味な話で、“田舎のスポーツ用品店の娘が自立を決意するまでの葛藤”という、本当に日本中どこの家庭でも起こっていそうな話で。ロケーションも家の中ばかりで役者の負担が大きいタイプの映画だと思うけど、前田敦子すごいんだよ。ぼてーっと重たい存在感が映画の世界にゃんとハマってて、かつあの個性的な顔立ちと声のインパクトが主演としての生命力にちゃんとつながっているという。いつでもダルそうですべて気に入らなくて突然キレ出す、ある時期特有の危うさ。みんな覚えがあると思うんだよな。父親とはいちおう食卓を囲むけど会話は少なくて、単語の応酬みたいなこれも本当によくできてて、また出てくるフードがちゃんとストーリーテリングに一役買ってるからすごい。なんでもない会話がいちいちハイライトになっていて、父親役の康すおんはもちろん、脇を固める登場人物がみんないいってことだね。最後にタマ子のちょっとした心の変化が起こってそれはつまり父親の気持ちの変化でもあって、劇中でまだシチュエーションはなにひとつ変わっていないのにすごく未来を感じさせるエンディングもいい。観終わった後も人物が生き続けるってことだもんね。ラスト、星野源「季節」が流れ出すタイミングも完璧。

チンした冷食で取り繕う擬似夫婦の食卓から、殺した人間を細切れにして「透明に」するスプラッターシーンまで全てが狂気。お前ここまでやれるか!?という園子温の叫び。しかしこの撮影期間、社本や村田であり続けた役者の精神状態ってどうなのか。役が侵食してこないのだろうかと心配せずにいられない。
現実がエンターテイメントを超えてることがますます浮き彫りになるコロナ禍で、それでも映画のひとつの金字塔たりえる堂々たる娯楽作品でした。園子温。でんでん、吹越満、神楽坂恵、黒沢あすからに心から喝采を。
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