長谷川光志
プロレスファン以外お断り〜#2 三沢光晴の本当の強さ〜
更新日:2022年6月13日

クルッと回ってスッと立つ。
三沢光晴の強さは何かと問われたら、俺はこう答えるのだ。
三沢の本当の強さは鶴田やゴーディ、ハンセンの意識を飛ばしたエルボーではない。
躊躇なく相手を頭から突き刺したタイガードライバー'91でも、それをここぞの場面でとっさに出せる直感や判断力でもない。
ケガをおしてリングに上がり続ける責任感、ヒクソンとの対戦について聞かれ「彼がドロップキックができるならやってもいいよ」と言ってのける覚悟やプライドでもない。
死闘はクライマックスを迎え、若林アナ言うところの「胸突き八丁」で両者ダウン。
…からの、クルッと回ってスッと立つ、なのだ。

“もうダメかも”というところで、ダウンしている三沢は天井を睨んで顔の汗をささっとぬぐい、何事もなかったかのように華麗に弧を描くように片膝立ちになり、そのあとスッと立ち上がる。
ダウンしている状態からこんなに美しく起き上がるレスラーを、俺は他に知らない。
そして汗のしたたり落ちる髪を両手でひとつかき上げ、起き上がってくる相手を上から見下ろすのだ。
この瞬間が最も、三沢の底知れぬ強さと奥深さを感じさせた。肉体もコンディションももピークだった当時。ゾクっとして、ああこれは、今日も三沢には絶対勝てないなと思わせた。

現在、三沢に憧れてレスラーになった世代がもうベテランと呼ばれる時代になっている。本当に強かった三沢光晴の姿を、新たなプロレスファンにもぜひ見てほしいと思う。
今はYouTubeでいくらでも見ることができてしまうけれど、当時は録画したプロレス中継を飽きずに何度も見ていた。VHSで見ていた。本当にテープは擦り切れた。同じ試合を(いま思えば)感心するくらい何度も見たが何度も見ても毎回感動するのだ。ここでどんな技が決まるとか、実況アナウンサーの珠玉のフレーズとか、みんな覚えてしまった。
見るほどに目が肥えてきてしまって、キックアウトするときのリズムの取り方でそのレスラーの良し悪しがわかるとか、カウントの速度からレフリーの心理状況がやたら気になるとか、みんながキャーキャー言ってる中「これではまだ決まらないよ」と冷めていたりした。ああプロレス初心者に戻ってまた純粋にキャーキャー言いたい!と思ったこともあった。
しかし絶対に決まらないよと思っていたらノックアウトで試合が終わってしまったり、丸め込みでスリーカウント入ってしまったり、果てはまさかの乱入ノーコンテストみたいな終わり方まであって、プロレスは俺を良い意味で裏切り続けることも忘れなかった。
今年も、三沢光晴が旅立った6月がやって来た。
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