長谷川光志
人類の火
ごらんなさい、
あれは火です。
人類が生み出したもっとも美しいもの
決して消えることのない火
目を凝らしてよくごらんなさい
青く燃えているのが見えるでしょう
人類が生み出したもっとも美しい
あれは火です。
あの火が燃えつづけるおかげで
いつでも昼間のようにあかるく
この星には夜がなくなりました。
見えないという苦しみから人びとは
解放されたのです。
それだけではありません
ありとあらゆる娯楽、サービス
私たちが手にしているすべての利便性は
あの火のおかげでここにある。
こうこうと町ぜんたいが光っているでしょう
美しく。
町はいろんなことを忘れさせてくれます
光る町は人びとの心の片隅から
不安を消し、さびしさを消し
考えなければならないたくさんのことを
忘れさせてくれるのです。
だからこの町の人たちは誰もが
いつも笑顔でいられます。
あれは命の火なのです。
ただ、
光る町は夜をおいやりました
夜にしか見えないものを
なくしてしまいました。
わたしもこのような体になり
夜の空に浮かぶ星というものが
見たいと思うようになったのです。
もうすぐわたしも星になるようですから。
ただ、困ったことに
火の消し方を知っている人たちは
ずいぶん昔に皆なくなってしまった。
今では、誰もあの火の消し方を
知らないのです。