• 長谷川光志

アスファルトとハードケース〜birthday one-manに寄せる

更新日:9月11日



アスファルトとハードケース。


それはいつでも僕の視界だった。

何度も行き来した道を今夜も駅へと歩く。

日があるうちに通ったときと逆方向、つまりいまは駅に向かって歩いている。終電にはまだずいぶん余裕がある。


時間は過ぎる、景色は流れる。

アスファルトとハードケース。

もちろんケースの中にはアコースティック・ギター。


ライブの帰り道は少し寂しい。

ここで踵を返して、来た道を戻ってみたらまだみんな盛り上がってたりして。さっきまでが夢だったみたいに、背景に紛れるようにして駅へと歩く。それくらいがちょうどいい、ライブのあとは。


大好きなあの店。

最後の一杯と決めたはずだったのに、誰かが発したふいの一言をきっかけにしてその夜のピークが更新されるなんてよくあることで、だから終電には注意しなきゃいけない。本当の終電の、ふたつ前の電車に乗れる時間にお店を出るようにね。


ライブの帰り道にこそドラマがあるんだよ。

興奮、充実感、達成感、何かが始まる予感。心地よい酔いとそうでないとき。悔しさも苦さも、ひとりで流す涙もぜんぶこのアスファルトの上にある。そのすべてが、音楽からのご褒美に違いないんだ。

ある曲が聞き手を旅へと誘うように、音楽は歌い手にもたくさんの景色を見せる。出会う景色はそのときの自分の心そのもので、つまり音楽はそんなふうにしていつでも僕らに魔法をかけ続けようとしてる。


下北沢。

ライブの帰り道は晴れていたらラッキーで、雨の日は急ぎ足。傘をさせば両腕がふさがるからポケットからスマホや財布を取り出すのも面倒だ。

今夜がどんなに最高の夜だったとしても、家に帰らなければ。火照った体と心を落ち着かせて、僕はいつでも電車に乗る。無事に家に帰るところまでがライブだというのは、次のライブがあるということ。そこに向けて、また日常を始めるということだ。



今年も誕生日がやってくる。

その年になって「バースデーライブ」もないだろうと突っ込まれそうだが、毎年やってるんだ。今年もやるってことは、今年も音楽をやってるってことだ。音楽と一緒に今年も生きてるってことなんだ。


音楽が伝わるとき、音と言葉に乗っかって僕のかけらが君の中に入るだろう?


それが音楽だって信じられることは、長いこと歌ってきた過去の時間の積み重ねと同じくらい、更新していくその時間の最先端に意味があると思えることに似ている。

音楽のない人生なんて絶対に味気なかった。なくてもきっと生きられるけれど、きっと僕は「ただ生きているだけの僕」になっていたと思う。言い換えれば、ずっと音楽を(一方的に)信じている。それにしても、こんなに信じられるものがあるって凄いことさ。信じらないくらいに。



今年も、バースデーライブがくる。


僕は今日も出かけて行く。

ハードケースを握りしめて。

アスファルトを踏みしめて。

今日待ってくれている人がいて、

そこで起こる魔法を信じている。

きっと今日は、今までで一番良いライブになる。


恥ずかしいから一回しか言わないよ。

音楽をやるってことは「明日を信じるてる」っていう合図なんだ。僕と君の未来に期待してるんだってサインを送るんだよ。そうじゃなきゃ、歌なんて意味を持たない。


ハードケースを抱えて歩くとき、僕はいまだに胸が高鳴る。まだ誰も知らないライブへの助走、今日も希望に満ち満ちている。

本当に、これを浪漫と言わずに何て言えばいいんだ。


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