長谷川光志
ひろくん
更新日:2021年8月6日
死んだ祖母が会いにきた。
夢の中で、ふたりでいろんなところを旅してまわった。誰かの車に乗せてもらったり、電車に乗ったりして。
たくさんしゃべったり笑ったりして疲れた祖母は歩くのが辛そうだったので、僕は「おんぶしようか」とたずねた。「そうしてくれる?」と喜んだ祖母が僕の背中に体を預ける。肩越しに感じる息づかいが妙にリアルだった。夏の夜、懐かしい感じのする見たことのない町を歩いていた。
しばらく行くと、雰囲気のあるビアホールを見つけた祖母が「あそこでビールを飲もう」と言った。ビールは一口飲んだら十分という人だったけれど、僕に飲ませたかったらしく、お財布にじゅうぶんお金が入っているかを確認していた。
入り口から続く階段を上がりながら、このあと涼しい店内でゆっくり会話ができると思うと嬉しかった。どんな話をしようかと思っているところで目が覚めた。
目が覚める瞬間に、
「ひーろくん。」
という、あの声がした。その声で目覚めた。いつもの、僕を呼ぶときの祖母の声。
もう、いつからだろう。こんなに気持ちのよい寝覚めを忘れていた僕は、祖母が見かねて声をかけにきたんだと思った。会いにきたんだ、と思った。祖母が亡くなってから何年になるだろう。当初は夢でいいから、幽霊でいいからと何度思っても一度も会えなかったのに。さよならして以来はじめての再会は、じんわりとあたたかくて力が漲るような感覚だった。
起きてすぐ仏壇に手を合わせたあと、祖母の写真に向かって気がすむまで語りかけた。
会いに来てくれてありがとう。でもああちゃん、お盆前に来ちゃったんだね。