長谷川光志
金色の思い出
ふたつめの台風がじわじわと関東に迫っている。みっしりと重たい雲を眺めつつ歩いていたら、まったく関係ないことを思い出した。
あれはたしか小学生のころ、図工の時間に絵を描いていた。画用紙いっぱいに水彩の絵の具、あれが果たしてどんな課題だったのかは忘れたが記憶の中の俺は「天使が空の上から町を見下ろしている」絵を描いていた。
生徒たちの絵にアドバイスしながら教室を巡回していたダミ声小太りの元気なおばちゃん先生が、ほぼ描き終えた俺のところにやって来た。そして最後の仕上げにイメージ通りのゴージャス感を出そうと金色の絵の具のチューブを絞っている俺に対しておばちゃんはこう言った。
「あんたダメ、金色使っちゃダメよ!金色使うとコンクールで賞が取れなくなるよ!」
同じようなことをダミ声で何度も言った。その人はとても気さくで飾り気のな好きな先生だったけれど、俺はそのとき
「コンクールで賞を取るために描いてるんじゃないや」
と言って、その金色を思い切り絵の中にまぶしていった。そうして、たしかにその絵は金色を使ったから(という理由かどうかはハッキリしないけれど)コンクールで「銅賞」だったのだ。
と、ここまでが俺の記憶の中のストーリー。なにかとなにかをつなげて脳が勝手に作ったにしてはやけに明瞭な記憶。
気づくのは、この頃から俺はほとんど変わっていないということだ。芯の部分は本当に、結局、今もこのままなのである。恥ずかしいくらい頑固なのだ。
大人になって“たまには賞を狙いにいくのもありだな”と思うようになったけど。
当時は絵ばかり描いてる子どもだったんです。なぜ突然こんな場面がフラッシュバックしたのかはわからんけど。